思い出は美しい?
何処を探しても、別宅のカギが見つからない。 大学生の娘、「ママ、何をしてるの?」 私、「秘密」 娘にカギを探していることを言えなかったのは、別宅について娘は知らないから。 別宅の存在を知ったのは、主人がこの世にいなくなってから。 生前、主人には女がいた。しかも、娘とさほど変わらない、若い女。 主人のスマホには、その女と別宅で撮った画像が残されており、娘には絶対見せられない。 主人の車のカーナビには、別宅までのルートが保存されていた。 別宅に着いたは良いが、庭は草木が生い茂り、それらを刈るだけでも一苦労。 どうして、私が浮気をしていた主人の尻ぬぐいをしなきゃいけないの! 半日掛けて草木を刈り、カギが見つからない私はカギ屋さんに来てもらった。 カギ屋さん、「こちらのオーナーさんですか?」 私、「は、はい」 返事を躊躇ったのは、相続でオーナーになったから。 それを証明できる書類や身分証をカギ屋さんに見てもらうと、別宅の合鍵を作ってもらえた。 カギ屋さん、「開くか試してもたえますか」 渡された合鍵は、出来たばかりのため、凹凸の部分がギザギザしていたが、玄関は開いた。 支払いをするとカギ屋さんは帰ろうとするため、 私、「ちょっと待って下さい。」 カギ屋さん、「???」 私、「ここに入るの、初めてなんです」 恐る恐る別宅の中に入る私を、カギ屋さんは見守ってくれていた。 私、「・・・」 カギ屋さん、「大丈夫ですか?」 私、「・・・」 カギ屋さん、「???」 私が無言になったのは、別宅で、眺めが一番良い部屋の壁に、私達家族が映る写真が飾ってあったから。 カギ屋さんが帰られてから、私はその写真に映る主人にデコピンをした。